OLC株売却の株主提案を京成が拒否、その理由に疑問

Disclaimer: 著者は京成の株主であり、本稿執筆時点において-18%の含み損を抱えている。投資は自己責任で。

自宅に京成電鉄の第181期定時株主総会の招集通知が届いた。かねてからニュースになっているように、パリサーが京成に対してオリエンタルランド(以下、OLC)の株式の保持数を引き下げていくことを提案している。今回の株主総会において、株主提案というかたちでOLC株の引き下げ等を定款に追加するという議案があり、これはおそらくパリサーによるものであろう。内容は以下の京成のIRからも確認できる。

https://www.keisei.co.jp/keisei/ir/stock/dl/meeting-181-j.pdf

この株主提案に対して京成取締役会は反対を表明しており、株主提案を否決するように株主に促すとともに、反対理由を表明している。しかし、私はその反対理由のロジックが弱いように感じた。私は株主提案に賛成するつもりであるが、メモとして感じたことを残しておきたい。

以下、京成取締役会の株主提案への反対理由と、私の感じたこと。

(1)当社グループは鉄道・バス等の公共性の高い事業を営んでおり、その事業特性上、安定性及び持続可能性が求められること

不確実なリスクが顕在化したときに、OLC株は重要な経営資源になるということだが、少子高齢化によって利用者数が確実に減少していくという確実なリスクが存在するのに、投資を先送りするというに聞こえてならない。他の沿線との競争を考えたときに、沿線開発というのは資金があっても短期間でなし得るものではないので、今すぐに積極投資すべきではないだろうか。

また、コロナや地震のような天災リスクが顕在化したときに、東京ディズニーリゾートと京成は同じ千葉県に存在することから、OLCの株式価値は大きく毀損する可能性が高い。天災などの不確実性への備えとしてはOLC株は不適切であると思われる。OLC株のみに寄せず、分散すべきであろう。

(2)国民的コンテンツに成長した東京ディズニーリゾートを保有・運営する株式会社オリエンタルランドとの関係は、当社しか持ち得ない貴重な財産であり、当社グループの将来の事業機会を創出する基礎となり得ること

京成とOLCで事業シナジーが創出できる、という主張だけれども、果たしてこれまで40年間でシナジーを創出できているのだろうか?そもそも舞浜を京成が通ってない以上、シナジーは期待できないのではないだろうか。

シナジーを創出できているというバス・タクシー運輸、ホテル事業、建築土木はそもそも京成の本業ではなく、現況でもさほど大きなシナジーは創出できていないように思われる。TDRへのバス・タクシー運輸はさほど大きな事業規模には見えないし、TDRからの発着をOLCがエクスクルーシブに京成に許可しているものではない以上、シナジーを創出できているとは思えない。京成グループのホテルもパートナーシップを結んでいるものもあるようだが、舞浜エリアにホテルを建築できておらず、他のホテル企業を比較して優位な経営をできているとも言えない。

インバウンド需要からの成田空港の利用者増も、影響は無いとは言えないけれど、OLC株を京成が保持しているから発生しているシナジーでもない。京成がOLC株を保持していなくとも、OLC目的の来日観光客は成田空港に降り立つはずだ。

(3)当社が保有するOLC株式は、当社の中長期的な企業価値向上のために必要となる大型投資の原資となり得る貴重な資産であること

この中長期な投資の具体性が乏しいように感じる。今現在においてその投資戦略がないのは、今の保有数と会計処理によってPBRが高く見えているため、経営陣にとって積極投資へのインセンティブが働きづらい状況になっているからではないだろうか。

東証からのPBR改善要請も出ているように、日本企業において資本効率を改善していくことがトレンドにある。京成の実質PBRは1未満であるため、これを是正することで株式市場から経営陣に対しての資本効率の改善にむけての適切なプレッシャーがかかるべきである。

(4)本株主提案は、当社が保有するOLC株式を短期的に売却し保有比率を15%未満にすること自体が目的化された提案であること

15%未満にすることは会計上の歪みを是正して、資本効率の向上への経営インセンティブを正しく方向づけようとすることが目的であるし、株式売却のみにフォーカスすれば2026年末というタイムラインは妥当だ。

(5)本株主提案が求める定款変更は当社の中長期的な企業価値向上に向けた経営上の制約要因となる可能性が高いこと

ちょっと奇妙な項目が定款に追加される気持ち悪さは理解できる。このOLC株式の保持問題が解消されるのであれば定款に追加はしなくてもいいだろう。ただ、株主提案という文脈において経営陣に強制力を持って執行させる手段として定款変更が選択されただけであり、これを理由に反対するのはナンセンスである。

この株主提案への反対理由を読み、京成の経営陣は新たなチャレンジ、リスクテイクに消極的であるように感ずる。京成の経営陣には、より積極的な投資に期待したい。

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